DRAGON DRONES

プロドローンインストラクターが綴る本気のドローン情報

改正航空法 3年を経過した 3Dスキャンからドローン測量までの道

2018年12月10日

明日で丸3年を迎える改正航空法。
この法律はドローンのために改正されました。
未だに法律を知らずに飛行される方が後を絶ちませんが、正しい知識としっかりとした操縦トレーニングで安全で正しい操縦と、低空域から見た素晴らしい映像や、社会に役立つ仕事を築き上げてほしいです。

映像は2015年12月10日に撮影ものを再編集しました。
ドローン飛行にとっては分岐点となる記念の日。
改正航空法が施行された日です。
狙ったわけではないのですが、天候をみてこの日に飛ばしました。
当日一番気になったのは、飛行中の鳥たちからの攻撃。
今見返すと、ラダーやサークルのスムーズさが無かった。
カメラチルトのタイミングも遅かったり、送りが早かったりと恥ずかしい映像集となりそうですが、思い切って掲載します。

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3年で変わったこと

空撮がメインだった2015年。
LOFTの3Dラボ3店舗に僕が企画開発した3Dファストスキャンシステムの納入も無事完了して通常稼働となった頃でした。
ドローンを飛ばしながら、もしかしたら以前働いていた航空測量会社を思い出して、数年後ドローン測量が日常業務になるのかなと、ぼんやり考えていた時の観音像撮影。
3Dラボでスキャンできるサイズは大きいものでも2m程度。ドローンのカメラ性能が上がればスキャンニングも簡単だなと思い、大型建造物のスキャニングを始めました。

3Dスキャンで学んだこと

3Dスキャンにおいてのポイントは被写体が動かない事。
人間や動物などをターゲットにすると「動かない」を実現するには被写体全周を同時に撮影しなければならないのです。
3Dファストスキャンシステムは120台ものデジタル一眼レフを1/125秒で同期させること、ストロボも同期させて発光させる必要があった為、大手光学メーカーや世界的な3Dスキャンメーカーが実現できずにいました。
もう、話してもいいかなと思ったのでカラクリを少しだけ綴ります。
120台のデジタル一眼のシャッターはアナログ信号のレリーズでブースター付きの分配器でつながれています。
当時はリモートシャッターはBluetoothが常識とされていました。
5台、10台とカメラを増やしていってBluetoothレリーズでシャッターを切ると同期が出来ず音でもわかるくらいのズレが生じてきます。
人間で考えるともっと分かりやすいかもしれません。
お祝い事で一本締め「よぉ~っ! パン!」と手をはたいて締めますね。
10人程度だと、きれいに単音で聞こえますが、50人、100人と人数が増えるにつれ手をはたくタイミングが微妙にズレてきます。一本締めの時はその音のずれが厚みとなって迫力が出ますが、シャッターがズレてしまうと好ましい3D写真とならないのです。

意外にもアナログ

Bluetoothという比較的新しい通信方式では120台のカメラに同時に信号を送ることが難しいというか、電波を使っている限り回折やノイズの影響で1/125秒以内のズレに抑えることが出来なかったのです。
USB接続でカメラをPCアプリ経由でシャッターを切ることも可能です。しかしUSBも120台のカメラを同時に制御することはハード設計上非常に困難です。
実際、120台のカメラ設定は2台のPC経由で行っています。
ピント、露出、シャッタースピード、ホワイトバランスなどの設定変更を全て手で行うとなると1回のスキャニングの為にどれほどの設定時間が必要なのか、想像するだけで疲弊してしまいます。
徐々にテクノロジー的には後退していきます。
長距離では電波が有効ですが、近距離でしかも同じデバイスを同期させながらのコントロール。
結局、アナログ信号でシャッターを切ればいいということになり、分配器でシャッターを同期させるに至りました。

シャッターが切れない

誰もやったことが無いので、専門家もいないしネットで調べても役に立つ情報が得られませんでした。幸い英語でも何となく理解できるので外国のサイトを調べまくっても答えなし。
言葉通りの意味で模索していて一番苦労したのが、シャッターを切るというカメラ側の動作でした。
レリーズ+分配器ですべてのカメラにシャッター信号は送れるようになりました。
しかし、それでも数台のカメラは遅れてシャッター音がするのです。
明けても暮れてもシャッターを切っていると、音を聞いただけで同期できているかの判断がつくようになってきましたが、同期できるのは数百回に一度ほど。

温故知新⁉ 

結局は昔のテクニックを思い出しながら応用するしかなかったのです。
答えはミラーアップ。
デジタル一眼はシャッター信号を受けるとミラーを上げて、メカニカルシャッターを切ります。
そしてシャッターが開いている時間が露光時間となり、シャッターが閉まって映像に残るのです。
ミラーはバネを利用して跳ね上がります。
一眼レフとしての製造品質としては問題なくミラーが動作するのですが、120台同期となるとほんの少しの誤差でミラーアップが遅れてしまい、同期した写真が撮影できなくなってしまうのです。
当時使用していたカメラはCanon Eos Kiss X7i。
ミラーアップ機能があるので、同期撮影には必要のないミラーアップという作業を加えてから、レリーズスイッチを押す。
そうすると、1/125秒内で120台のカメラがシャッターを切って狙い通りの「3Dスキャン」が出来るのです。

写真が暗い!解消方法が無い

もう安心。と思いきやもう一つ大きな課題が出てきました。
ストロボとの同期です。
レリーズから親の分配器に信号を送って、子分配器へツリー上につなげてゆきます。
親分配器にはマスターのモノブロックストロボへ配線されています。
電気信号を受けたマスターストロボが光ると、その光を検知してスレーブストロボ数台が光ります。
光のスピードはシャッタースピードよりはるかに速く伝達するので問題なく「同期」されるのです。
しかし、その速さ故シャッターを切るタイミングよりストロボが光るタイミングの方が若干速くなるため、シャッターを切って記憶された映像のほとんどがアンダーか真っ黒になってしまいます。
ストロボを発行させるタイミングをミリ秒単位で調整する必要が生じてしまいました。
信号を遅らせるディレイ装置を作っていただき、さっそく装着です。
アナログ方式のディレイ装置を調整します。
こうして、ようやく1/125秒という「瞬間」に120枚の写真を同時に撮影できるようになりました。
あとはPC2台で120台のカメラをUSB接続する必要があったのですが、これに関してはもし2台で出来なければ台数を増やしていけば解決できてしまうので安心していました。
技術が大好きなスタッフたちはこういったことに心血を注ぐのですが、僕としてはすでに注文を貰ってしまったロフトさんへの納入が可能となっていたので、好きにやってもらいました。
コスト的にも売上数千万の内の10万円程度、粗利益もしっかり出しているので量産モデルではないので気にしませんでした。
今回初めて打ち明けた誰にもできなかった、一眼レフカメラ120台の同期撮影による「3Dファストスキャンシステム」ですが、実現できてしまうと面白みが無くなってしまいます。

暇つぶしから思い出した空中写真測量

一番大変だったのは、LOFT有楽町店のお披露目用に制作した稲垣潤一さんのドラムセットです。
スキャニングは事前に群馬で撮影が行われましたが、ドラムセットが稲垣さんのアイコンの一部なので作らないわけにはいかない。
かと言って田宮模型などでは売っていない。
仕方がないので、実際に使用しているドラムセットを拝借してスタッフに3D CADでドラムセットを書いてもらいました。偶然中学~高校生までの6年間ドラムをやっていたので細かいディテールの中から印象的な部分だけを表現することも容易にできました。
CADで設計が終わると、3Dプリンターで「印刷」です。
十数センチの高さのドラムセットを造形するだけでも20時間以上かかります。
造形作業はクリック数回で始まるので、待つだけです。
出来上がったドラムセットは後処理を経て外形が完了します。
後は手で色付けです。
僕自身が塗装が得意なので作業者として担当しましたが、30時間ほど掛かるのです。
表面の研ぎ、サフェーサー、乾燥、マスキング、下塗り、マスキング上塗り、マスキング・・・・
小さなドラムセットを限りなく本物のように作る。大変な作業でした。模型屋にはなれないと確信しました。
有楽町店、渋谷店、梅田店と3Dファストスキャンシステムが順調に納入されました。
一度問題ない納入の仕組みを構築すればあとは簡単です。
同時にテスト的に始めていたドローン撮影。
撮影だけでは面白みがないので、静止画のラップ撮影をしてPhotoScanで3D化。
自動車でも、建物でも簡単に3Dスキャニングができる。
一方、計測するための基本知識や撮影技術が無ければ難しいと感じている人たちが多いことに驚きました。
小学生のころから土地家屋調査士だった祖父の手伝いで平板測量をしていたので、三角測量の知識は体で覚えています。
偶然にも航空測量会社に勤めてしまったので、空中写真測量の知識と実務についても体で覚えています。測量会社での仕事は専ら談合でしたが、それにしても資料を読み漁って知識を身につけてしまいました。

そうやってドローンによる3D計測のノウハウが自然に溜まってしまって現在に至ったのです。
3年経過した改正航空法。ドローンと組むことで計測の世界は一気に広がりを見せると感じます。

 3Dスキャン

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